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【シゴデキたちの教科書 Vol.1】叱れない時代の人間関係が9割ラクになった。凄腕上司に仕込まれた「たった3つの原則」

明るいオフィスの机に並んで座り、全員が頭を抱えて落ち込んでいる4人のビジネスパーソン
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はじめに:お盆も明けて、日常が戻ってきた、あなたへ

お盆が明けて、もうしばらく経った。休みモードが完全に抜けて、日常の仕事のペースに戻ってきた頃だろうか。同時に、「またあの人間関係か……」という、独特の憂鬱さも一緒に戻ってきていないだろうか。

私はPRプランナーとして都内で働いていて、仕事柄いろいろな業種の方と関わる機会が多い。その中で気づいたのだが、ある程度のキャリアを積んだ人ほど、悩みの中心が「業務の難しさ」から「人間関係の難しさ」に移っていく。

部下が思うように動いてくれない、評価のたびに顔色をうかがってしまう、良かれと思って伝えたことが相手のやる気を削いでしまう。こうした悩みは、業種や役職を問わず驚くほど共通している。

でも、こうした悩みを抱えるのは、決してあなたの能力や人間力が足りないからではないと思う。

むしろ、今の職場でこの手の悩みが増えるのは、ある意味で当然のことだ。コンプライアンスの重要性が増し、ハラスメントの形も多様化・複雑化する中で、オフィシャルな場における人間関係は、以前よりも確実に難しくなっている。

強く叱ることもできない、感情的に詰めることもできない。かといって放っておけば「マネジメント放棄」と言われる。

板挟みの中で、正解の見えない距離感を探り続けているのが、今のビジネスパーソンなのだと思う。

この記事は「シゴデキ達から学んだビジネスの教科書」——心理学や、『7つの習慣』のような哲学まで、私が出会った「すごい人」たちから、直接学ぶことができた考え方を紹介していくシリーズの第1回。

今回紹介したいのは、今でも「あの人は別格だった」と思う最強のシゴデキ上司・Kさんから叩き込まれた考え方だ。

Kさんが折に触れて話していたのは、心理学者アルフレッド・アドラーが体系化した「アドラー心理学」だった。難しそうな名前だが、中身は驚くほどシンプルで実践的だ。今日は、専門用語をできるだけ使わずに、誰でもわかるように解説してみたい。

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なぜ悩みは尽きないのか:私たちが陥りがちな考え方のクセ

ソファに座り、両手で頭を抱えてうつむいて悩んでいる若い男性

対人関係の悩みが解消しにくい背景には、私たちの思考の「クセ」がある。それは、問題が起きたときに「なぜこうなったのか」という過去の原因を探ろうとする思考法だ。

「あの部下は昔から指示待ちの性格だから」「上司が高圧的な人だから、自分は萎縮してしまう」——こうした説明は、一見もっともらしい。

実際、私も部下がうまく動いてくれないとき、「あの子はもともと消極的なタイプだから」と、性格や過去のせいにして片付けていた時期がある。でもこれは、原因を探っているようで、実際には思考を停止させ、現状を変える手がかりを自ら手放してしまっている行為だった。

原因を変えられない過去の中に捉えようとするので、「では今、自分に何ができるか」という一番大事な問いに、永遠にたどり着けないのだ。

さらに厄介なのが、多くの職場で当たり前とされる「褒めて伸ばす」マネジメントである。これは一見優しいようでいて、部下を「他人からの評価」に依存させる関わり方でもある。

承認欲求をドライバーにした指導は短期的には機能するが、評価者である上司がいなくなったり、褒められない状況が続いたりすると、部下は途端にやる気を失う。

これは部下の心が弱いからではなく、モチベーションの土台を「他人の評価」という不安定なものの上に置いてしまっているからなのだ。

「最強の心理学」の3つの視点

こうした行き詰まりに対して、アドラー心理学は明確に異なる視点を提供する。ここでは特に実務に応用しやすい3つの考え方を、できるだけ具体的に紹介したい。

① 課題の分離——「それは、誰の課題か」を先に決める

白い背景に黒い線で描かれた組織図の上に配置されている、ビジネスマンのミニチュアフィギュア

アドラー心理学の中核にあるのが「課題の分離」という考え方だ。ある問題が起きたとき、それが「誰の課題なのか」を、まず明確に切り分ける。見分け方はシンプルで、「その選択の結果を、最終的に引き受けるのは誰か」を考えればいい。

これは実は、今の時代の職場でこそ、非常に重要な考え方だと思う。

近年は、部下への関わり方ひとつをとっても、一歩間違えればハラスメントと受け取られかねない時代になった。「良かれと思って」「本人のために」という気持ちが、気づけば過干渉やコンプライアンス違反に転じてしまうことも珍しくない。

だからこそ、「どこまでが自分の課題で、どこからが相手の課題か」を線引きする力が、これまで以上に問われている。

たとえば「部下が、会社からも推奨されている資格の勉強に、なかなか身が入らない」というケースを考えてみよう。

これは判断が難しい典型例だ。会社の看板を背負った、なかば公式な自己研鑽である以上、無視していいわけではない。

かといって「毎日ちゃんと勉強したか報告して」「休日も勉強に充てるべきだ」と踏み込みすぎれば、業務時間外のプライベートへの過干渉になり、パワハラや労務管理上の問題に発展しかねない。

そうなれば、資格に落ちる程度では済まない、もっと大きなダメージを自分やチームが負うことになる。

ここで課題の分離が効いてくる。「合格させること」そのものは部下自身の課題であり、上司が直接コントロールできる範囲の外にある。

自分がコントロールでき、かつ責任を持つべき範囲は、「学べる環境を整えること」「本人から相談があったときにきちんと乗ること」「進捗を尋ねる機会を用意すること」まで。この範囲にこそ、自分のリソースを割くべきだと割り切る。

具体的なアプローチとしては、たとえば月に一度、雑談ベースで「資格の勉強、どう?なにか困ってることある?」と聞くだけにとどめる。返ってきた答え次第で、必要なら教材を紹介したり、業務量の調整を検討したりする。それ以上、勉強のペースや取り組み方そのものには口を出さない。

これだけで、上司としてやるべきことはやりつつ、相手の領域には踏み込まない、ちょうどいい距離感を保てる。

② 目的論——「なぜ」ではなく「何のために」を問う

テーブルを囲んで行われている会議で、資料やペンを手に持っているビジネスパーソンたちの手元のアップ

過去の原因を探る原因論に対し、アドラー心理学は「その行動には、どんな目的があるのか」を問う目的論の立場を取る。

たとえば、部下が会議でいつも黙っている、という状況を考えてみよう。原因論なら「昔から人見知りな性格だから」で終わってしまう。

しかし目的論では、「黙っていることで、この人は何を避けているのか、あるいは何を得ているのか」を考える。もしかしたら「発言して否定されるくらいなら、黙っていたほうが安全」という目的があるのかもしれない。

だとすれば、必要なのは「もっと発言して」という叱咤ではなく、「発言しても否定されない場をつくる」という、こちら側の関わり方の変化だ。

この視点の転換は、日々の会話の質そのものを変える。「なぜできなかったの?」という問いは、どうしても相手を過去の失敗に縛りつけ、言い訳や防御を引き出しがちだ。

一方で「これから、どうしていこうか」「何が変われば、もっとやりやすくなりそう?」という問いは、同じ出来事を扱っていても、相手を未来に向かせる。原因を探るのをやめるだけで、「誰が悪いのか」という犯人探しではなく、「これからどうするか」という建設的な議論に、自然と焦点が移っていくのだ。

③ 勇気づけ——「評価」ではなく「対等な後押し」

屋外で紙コップのコーヒーを手に持ち、笑顔で談笑している2人の若い男性ビジネスマン

3つの中で一番イメージしづらいのが「勇気づけ」かもしれない。後で紹介するケーススタディも含めて、少し丁寧に説明したい。

「褒める」というのは、実は上の立場の人間が下の立場の人間に点数をつける行為だ。「よくやった」「合格点だ」という言葉の裏には、常に評価する側とされる側という上下関係がある。

「勇気づけ」はこれとは違う。

結果に点数をつけるのではなく、相手が置かれていた状況や、そこでの努力・工夫そのものに関心を向け、対等な目線で言葉を交わす。たとえば「よくやった」ではなく、「あの場面、判断が難しかったと思うけど、どう考えてそうしたの?」と聞いてみる。

評価を下すのではなく、相手の中にある考えや意欲そのものを後押しするイメージだ。

これがあると、部下は「評価されるかどうか」ではなく「自分がどう考え、どう動いたか」に軸足を置けるようになる。承認欲求に依存しない、もっと安定したモチベーションの土台になるのだ。

ケーススタディ:あるある状況を、この視点で解きほぐす

オフィスでノートパソコンの画面を真剣な表情で一緒に見つめている男女のビジネスパーソン

概念だけではイメージが湧きにくいと思うので、私が実際にKさんの下で経験した、ありがちな一場面を紹介したい。

当時、私はチームリーダーとして、新人のAさんの教育と実務の運用を任されていた。Aさんは真面目なのだが、ミスをすると必要以上に落ち込んでしまい、報告が遅れる癖があった。何度か口頭で「気づいたらすぐ報告して」と伝えていたのだが、一向に改善しない。

そんなある日、Aさんが顧客への提出資料で数字を間違え、それに気づかないまま先方に送ってしまうという出来事が起きた。

何度言っても直らないことへの苛立ちが限界に達し、私は我慢できずにKさんのところに駆け込んで、「あいつ、何度言っても同じミスをするんです。もう任せられません」とまくし立てた。

Kさんは黙って聞いたあと、こう聞いてきた。

「その資料、最終チェックしたのは誰?」

私は「Aです」と答えた。Kさんは続けた。

「じゃあ、その前に、あなたはその資料、見た?」

正直に言うと、忙しさにかまけて、私は最終チェックをAさんに任せきりにしていた。Kさんはそれを咎めるでもなく、静かにこう言った。

ミスをしたこと自体は、Aさんの課題。でも、『任せて大丈夫か』を判断してAさんに渡したのは、あなたの課題だよ。本来あなたは、Aさんを育てて、チームとしてちゃんと機能させる立場のはずだよね。それなのに、今のあなたはただAさんを責めるだけの人になっちゃってる。それって、あなたが本来やるべき役割からは、ちょっとズレてないかな」

これが、まさに課題の分離だった。私はAさんの失敗に自分の責任まで混ぜて怒っていたことに、ここで初めて気づかされた。

さらにKさんはこう続けた。

「あと、Aさんがミスを隠そうとしたわけじゃなくて、報告が遅れたんだよね。それって、Aさんの中で『報告したら怒られる』っていう予測があったからじゃない? 原因は性格じゃなくて、これまでのあなたとのやりとりが作った目的かもしれないよ」

これは目的論の視点だった。「Aさんは臆病な性格だから報告が遅い」と決めつけていた私に対し、Kさんは「報告を遅らせることで、Aさんは何を避けようとしていたのか」という問いを投げてきたのだ。

振り返れば、私は以前、別のミスの報告を受けたときに強く叱責したことがあった。Aさんにとって「早く報告する」という選択肢は、「また怒られる」というリスクと引き換えだったのかもしれない。

最後にKさんは、こうアドバイスをくれた。

「今度Aさんと話すときは、ミスそのものより先に、『気づいてすぐ言いに来られなかった理由』を一緒に考えてあげたら。あと、もし俺だったら、まずはこう聞いてみるかな。『いつも丁寧にやってくれてるの知ってるよ、今回は何があった?』って」

これが勇気づけだった。ミスを許容するという意味ではない。Aさんを「ダメな部下」ではなく「これまで頑張ってきた一人の対等な存在」として扱った上で、次にどう動けるかを一緒に考える、という関わり方である。

実際にその通り話してみると、Aさんは最初こそ身構えていたものの、次第に「実は前回怒られたのがすごく怖くて、今回も言い出せませんでした」と本音を話してくれた。そこから、ミスに気づいた時点でまず一報だけ入れる、というルールを二人で決めた。

その後、Aさんの報告の速さは目に見えて変わっただけでなく、少しずつ表情も変わっていった。会議で自分から発言するようになり、やがて自分なりの企画を提案してくることも増えた。余談だが、今ではたまに二人で飲みに行く関係になっている。

叱ったわけでも、性格を変えさせたわけでもない。課題を分離し、目的を問い、勇気づけただけで、関係性そのものが変わったのだ。

ビジネス現場での他の応用例

このエピソードは一例に過ぎないが、同じ視点は日々の様々な場面に応用できる。

1on1ミーティングでは、部下の抱える悩みについて「それは自分がコントロールできることか、相手がコントロールすべきことか」を整理するだけで、上司自身の消耗が大きく減る。

目標未達のメンバーへのフィードバックでも、「なぜできなかったのか」を問い詰めるのではなく、「次に向けて何を変えられるか」という目的論的な問いに切り替えることで、相手の防御反応を引き出さずに済む。

チーム内では、成果だけを褒めるのではなく、挑戦や工夫のプロセスに対して勇気づけの言葉をかけることで、心理的安全性が高まり、失敗を報告しやすい空気が生まれる。

よくある反論とその答え

もちろん、こうした考え方には反論もある。代表的なのが「課題の分離は、部下を放任することにつながるのではないか」という懸念だ。

しかし、先ほどのAさんのエピソードを思い出してほしい。Kさんは私に「関わるな」とは一言も言っていない。むしろ「どこまでが自分の責任で、どこからが相手の責任か」を明確にすることで、私はAさんにより意図的に、より建設的に関われるようになった。

課題の分離は、関わりを断つことではなく、必要な支援と過干渉を区別するための整理術なのである。

また「精神論では業績は上がらない」という批判もあるだろう。しかし、対人関係のストレスによる離職や、評価への過剰な依存によるチームの停滞は、長期的には数字にも表れる組織課題である。

アドラー心理学が扱っているのは精神論ではなく、対人関係という、ビジネスにおいて避けて通れない領域を扱うための、具体的な思考の技術なのである。

おわりに:思考の技術としての「最強の心理学」

課題の分離、目的論、勇気づけ——この3つの視点は、対人関係の悩みを構造的に解きほぐすための思考のツールだと思う。アドラー心理学は、特別な才能や性格を要求するものではない。誰でも学び、明日からの1on1やチーム運営に使うことができる、実践的な技術だ。

お盆が明けて、また日常の人間関係に戻っていく今だからこそ、一度立ち止まって、自分の中の「原因論」や「評価による関わり」を見直してみてほしい。私がKさんから受け取ったものを、少しでもこの文章で誰かに手渡せていたら嬉しい。


「シゴデキ達から学んだビジネスの教科書」Vol.2に続く。 次回は、また別の「すごい人」から聞き取った、仕事と人間関係がラクになる考え方を紹介する予定です。


筆者紹介

デスクでノートパソコンに向かい、笑顔でタイピングしている女性(riho)のイラスト。手元には「IDEA NOTE」と書かれたノートやコーヒーが置かれている

riho|PRプランナー

都内在住のPRプランナーです。飲食、メーカー、コスメ、ITから観光行政まで、業種を問わずさまざまなクライアントや現場の方々と一緒にお仕事をしてきました。偉そうにこんなこと書いてますが、実はものすごくインドア&人見知りな性格で、社会人1年目は人間関係につまずいてばかり。そんな私を大きく変えてくれたのが、このシリーズで紹介している「すごい人たち」からの教えでした。

仕事柄、日々いろんな業種・立場の方の「人間関係の悩み」を間近で聞く機会が多く、「これ、あのとき教わった考え方で解決できるかも」と思うことがよくあります。

私が出会った「すごい人」たちの言葉を、少しでも等身大の形で誰かに届けられたら。そんな気持ちでこのシリーズを書いています。

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